14th 10 - 2015 | comment closed

介護福祉士の妻の話

奇しくも私と共に人生を歩む事となった妻について語ろうと思う。妻は私と同じ介護施設で働く介護福祉士である。実年齢は私より2つばかし上なのだが、精神年齢は私より一回りも下のため、童顔も相まってたいそう幼く見える。それがまた、たまらなく可愛いところではあるのだが、「成就した恋ほど語るに値しないものはない」という言葉があるように、ここでは口を紡ごう。
妻は元々介護福祉士ではなかった。大学こそ福祉系の学部を出ているものの、漠然と迫りくる就職活動の荒波に揉まれ、あれよあれよという間に不動産の営業マンになっていた。私が「どうして前職は不動産の営業だったんだい?」と聞くと、妻は怪訝な顔をしながら「わからないの」と答える。ここで追及するほど私も野暮ではないので、不問にすることにした。
妻に転機が訪れたのは不動産の営業マンになってから1年半後のことだ。ある日、老夫婦が老骨に鞭を打って新居の相談に来た。妻が担当し話を聞いていると、老夫婦は「今の家は過ごしにくいので、もっと私達の体に優しい家を紹介してくれませんか」と口を揃えて言った。妻は大学で学んだ知識を思い出しながら、老夫婦の要望に応え得る最適の物件を紹介する。その後、老夫婦は妻が紹介した物件に入居を決めた。老夫婦の満足している姿を見た妻は、筆舌に尽くし難いほどのやりがいを感じた。その日から妻は「困っているお年寄りを助けたい」という夢を持ち、その夢を叶えるため福祉の道へと転職する事にした。
妻は、福祉の中でも介護業界が一番お年寄りに寄り添えるのではないかと考えた。介護福祉士の資格を取得するや否やパソコンで求人サイトを開き、膨大な数の求人へと目を通し今の介護施設を選んだ。そして求人サイトで偶然見つけた介護施設で私に出会うこととなる。

先に話した一連の出来事は、結婚してから数年経って妻が赤裸々に語ってくれた。
出会って間もない頃、私が妻に「どうして現職の介護福祉士になることにしたんだい?」と質問を投げかけると、妻は悪戯が見つかったときの少女のようにいじらしく答えた。

「成就した夢ほど語るに値しないものはないのよ」

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